はじめに
当院では平成27年4月より日本肝臓学会肝臓専門医6名(常勤医師3名、非常勤医師3名)による肝疾患診療を連日行っております。
B型肝炎/C型肝炎ウイルスとはどういうものか、日常生活の注意点、治療の必要性、最新の治療法などについて情報を提供いたします。近年、食生活の欧米化、運動不足などにより、肥満に伴う脂肪肝が年々増加しており、そのような方の生活指導、定期的な医療機関受診の必要性などもわかりやすく説明いたします。また肝硬変や肝細胞癌においては、その病気の進行度に合わせた最善の治療法を患者さんやご家族と共に考えていきます。
その他、さまざまな肝臓における疑問や治療のご相談をお受けいたしますので、お気軽に受診してください。
さまざまな肝疾患について
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルスに感染している患者さんは、血液中のウイルス量や免疫応答により、肝硬変や肝細胞癌のリスクが大きく変化していきます。そのことから、活動性の高い肝炎の場合はインターフェロンや経口抗ウイルス薬(核酸アナログ製剤)による治療が必要となります。
当院では、血液中のウイルス量や免疫応答により適切な治療法を選択し、長期的に経過観察を行っていきます。
C型肝炎ウイルス
我が国における肝細胞癌のおよそ50~60%がC型肝炎ウイルスに関連したものであり、肝疾患診療においてC型肝炎ウイルス対策は最も重要な課題の1つです。C型肝炎ウイルス感染に伴う肝硬変では年率7%、慢性肝炎では年率1~2%に肝細胞癌が発生してくるとされています。そのことから、C型肝炎ウイルスの持続的な感染がある患者さんは、できるだけ早期に治療適応の有無を評価し、抗ウイルス療法を行う必要があります。
従来はC型肝炎ウイルスに対する治療はインターフェロンが中心となっておりましたが、2014年より経口薬だけの治療(インターフェロンフリー)が可能となってきました。経口抗ウイルス薬は治療効果も高く、副作用も少ないことから、インターフェロン療法が困難であった患者さん(高齢、肝硬変、副作用など)においても十分効果が期待できます。
当院では、ウイルスの種類や量、病態などに合わせて、最新かつ最善の治療法を提供いたします。
C型肝炎ウイルスに対する治療の推移(%=根治率)
- 1992年
- インターフェロン(IFN):5%
- 2003年
- ペグIFN:20%
- 2004年
- ペグIFN+リバビリン:60%
- 2011年
- ペグIFN+リバビリン+テラプレビル(セロタイプ1):73%
- 2013年
- ペグIFN+リバビリン+シメプレビル(セロタイプ1):90%
- 2014年 (経口薬)
- ダクラタスビル+アスナプレビル(セロタイプ1):85%
- 2015年 (経口薬)
-
ソホスブビル+リバビリン(セロタイプ2):95-97%
ソホスブビル+レジパスビル(セロタイプ1):99-100%
オムビタスビル+パリタプレビル+リトナビル(セロタイプ1):95%
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
近年、食生活の欧米化や運動不足などにより、日本の成人の20~30%が脂肪肝を有すると考えられています。その中でも、飲酒習慣がなく、肥満やメタボリックシンドロームに伴って起こる脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といいます。NAFLDを放置したままにしておくと、20~30%の症例において、肝硬変や肝細胞癌に進展する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)へ進行するとされています。
またNAFLD/NASHの多くは無症状であり、気づかない内に病態が進行していく危険性があります。そのため、「どうせただの脂肪肝だから放置しても大丈夫だろう」と考えないことが重要です。
当院では、脂肪肝(NAFLD/NASH)の病態に合わせて、食事と運動療法を基本とした適切な治療を行って、肝硬変や肝細胞癌に進展しないよう長期的に経過観察を行っていきます。

肝硬変
肝硬変とは、長期間肝障害が持続することにより、肝細胞が減少し線維成分が増生することで肝臓が硬くなった状態を言います。肝硬変の原因としては、ウイルス性、アルコール性、NASH、自己免疫性など多岐にわたります。肝硬変が進行すると、全身倦怠感、黄疸(目や体が黄色くなる)、むくみや腹水、肝性脳症(意識の低下)、食道静脈瘤などが見られるようになり、日常生活動作(ADL)の低下へとつながります。
当院では、肝硬変の進行度に合わせた食事や生活指導、腹水や肝性脳症などのコントロールを中心とした内服加療を行っていきます。
肝細胞癌
肝細胞癌は腫瘍の進行度(1. 腫瘍の数、2. 腫瘍の大きさ、3. 血管侵襲の有無、4. 遠隔転移の有無)によって適切な治療法の選択が必要となります。そのため当院では、ソナゾイドを使用した造影超音波検査、ダイナミックCT検査、EOBプリモビスト造影MRI検査など最新の画像診断法により正確な腫瘍診断を行っています。その上で最善と思われる治療法を患者さんやご家族に提示し、最終の意思決定を行っていきます。
当院では、肝細胞癌の進行度に合わせて、下記のような内科的治療を中心に行っております。
- 比較的小さな肝細胞癌(3cm以下かつ3個以下)に対しては、ラジオ波焼灼療法を行います。
- 多発する進行肝細胞癌に対しては、
- A:肝動脈化学塞栓療法(TACE)
- B:埋め込み式リザーバーによる肝動注化学療法
- C:分子標的治療薬 (ネクサバール)
加えて、肝細胞癌は治療後も再発が多いことが知られており、再発予防を目的とした長期的な生活指導や内服加療も行っていきます。



その他の肝腫瘍 [胆管細胞癌、転移性肝腫瘍(主に大腸癌)]
これらの肝腫瘍は切除が可能であれば外科的手術が最も効果的な治療法です。しかしながら、さまざまな理由から(腫瘍が大きい、多発している、高齢など)手術が困難な方も少なくありません。
当院では、このような患者さんに対して、全身化学療法、肝動注化学療法、ラジオ波焼灼療法などの内科的治療から最善の治療法を選択して行います。内科的治療の効果が得られれば、根治を目的とした外科的手術を最終的に目指していきます。
その他の肝疾患
- 自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎)
- アルコール性肝障害
- 薬剤性肝障害
- 代謝性肝疾患(ヘモクロマトーシス、Wilson病)
- 原因不明の肝障害
上記のような肝疾患についても、疾患に合わせて適切な生活指導や内服加療を行います。