病院長エッセイ

2017年07月の挨拶

おはようございます。

今日は、先日亡くなられた小林麻央さんの事から思ったことを話したいと思います。

34歳という若さでこの世を去るという悲劇に、現実は小説より残酷なものだと改めて感じました。私がある情報筋から聞いたところでは、どうも昨年ノーベル賞候補になり話題となったM教授の作った抗がん剤を使ったようです。週刊誌でいろいろ言われていますが、ある程度の効果はあったんじゃないかと私は思っています。

さて、今日の話はそういうことではなくて、麻央さんのブログに関しての感想です。病気を公表後しばらくして、麻央さん自身がブログを書くというので気になり、何度か目を通すことがありました。ところが、故人には大変失礼ながら、私自身にはあまり心に響くものがありませんでした。というのは何か現実感のないポエムのような、はたまたきれい事すぎる印象がして、今まで私が読んだり見たりしてきた同様の事と比べかなり異質な感じを持ちました。もっと正直な心の声というか、例えばなぜ私だけがこんなことになったのかとか、あの時こうしていればとか、これだけ科学が発達しているのに何故今だ癌の治療薬はできないのかなども書いてほしかったし、これだけ影響力のある人の発言ですので、治療薬が早くできて欲しいとつづれば国のがん対策をも変えるインパクトがあっただろうにと思わずにはいられません。

実は、私は昔から、作家や著名人が死の間際に書く文章や行動に興味があります。人というのは誰も、早かれ遅かれ死を迎える訳ですが、死の間際には地位も名誉も金も女も何にも興味はなくなり虚無になるだろうと私は思う中、その時人間はどんなことを考えるのかに興味があるからです。

こういうことに興味を持ったきっかけは、以前、朝日新聞 山田風太郎の連載「あと千回の晩さん」を読んだり、週刊新潮 山口瞳のエッセイ「むくげの花」を若い頃読んだからです。この2つのエッセイを読むと、人が死んでゆくさまが直接的に書いてある訳でもないのにジーンと胸に迫ってくるのを感じたものです。

はたまたジャーナリストの筑紫哲也さんが肺がんStage Ⅳの化学治療の合間に、第一次安倍内閣の選挙特番に出て選挙で惨敗した安倍首相が今後も政権を担っていきたいと述べたのに対し、それは無理筋だ。民意が出た以上即刻退陣すべきだと迫った時には、これは死を覚悟した人間の発言だと思いましたし、我々に民主主義は民意が一番大事なのだよと改めて教えてくれたんだと今になってみて思います。

また、東京オリンピック、マラソン銅メダリストの円谷幸吉は、次のメキシコオリンピックで金メダルをとる事を全国民から期待されます。しかし度重なる故障、恋人との悲しい別れなどで心身ともに疲れ果て死を選んでしまいます。その時の遺書、父上様、母上様、三日とろろ美味しうございました。で始まる文章は、何度読んでも涙なしでは読めません。かの川端康成も日本文学史上最高の名文であると称賛しています。皆さんも一度、読んでみてください。

一方、江戸時代の禅の高僧 仙崖和尚が臨終間際に、弟子たちが枕元に並んで最後にさぞかし立派な事をお話しして下さるものと思い、筆を準備し待ち構えていたそうです。いよいよ死の直前、仙崖和尚は体を起こし、一言「死にとうない、死にとうない。」と言われたそうです。まさかこれほどの高僧が、そんな俗っぽい事を言うはずはないと弟子一同はあっけにとられ何度も聞き返したところ、さらにもう一度起き上がり「いや本当」と言って絶命したとの事です。さてこのエピソードは、いかに高僧といえども死ぬとき考える事は皆同じなんだということを教えてくれるものとして、今では高く評価されています。

このような話はいくらでもあり、今日は紹介しきれませんが、興味のある方は先程話した山田風太郎著「人間臨終図鑑」や嵐山光三郎著「追悼の達人」を買って読んでみて下さい。何百人もの有名人の臨終間際の事が書いてあり人生勉強になりますので。ちなみに今私は、瀬戸内寂聴が最後に何を言うのか興味があるんですが、あの人なかなか死んでくれません。

さて、そうそう麻央さんが亡くなった当日、海老蔵は悲しみをこらえ、昼夜2回の公演の合間、報道陣の取材に真摯に答えて立派なもんだと感心しました。ところがこの後がいけない。何と翌日から日に何十回もブログを更新し始めました。そこでまたしても私は少し読んでみましたが、本当につまらない代物で悲しくなりました。海老蔵よ、悲しい気持ちは良く分かる。しかし日本人というものは、悲しみをグッとこらえ、多くを語らず、ただひたすら我が本分に精進する後ろ姿に共感し、陰ながら応援するものだよと。何故、諸先輩方が諭、聞かせないのか残念でなりません。どうかこれ以上品格を落とさぬよう、一刻も早くブログをやめて欲しいものです。

話は変わります。先日、NHK特集でAIの事をやってました。将棋の名人、佐藤天彦にAIポナンザが勝利。今後、AIが全人類の知能を結集してもかなわないというシンギュラリティの時代が間もなくやってくるそうです。ただそんな事は、小学校の時初めてカシオの電卓を見た時から分かってた事で、たいして驚かなかったのですが、唯一ドキッとした場面がありました。それはもはや人に教えを請う必要のなくなったポナンザは、お互い2台で毎日対局しているそうです。その場面が映し出された時、なんと2台のポナンザは対局開始前に必要もないのによろしくお願いしまーす。とお辞儀をしたのです。なんて礼儀正しいんだ。この時私は初めてAIがなにか人よりも人らしく見えたのであります。ジミー大西が明石家さんまの付き人時代、2個の桃と3個の桃合わせていくつと問われ、ももももももももももと答えたそうです。つまり、麻央さんのブログを読んで感じたことは、生身の人間がどんどん無機質化、均質化する一方AIはどんどん人間くさくなり、ジミー大西より面白い解答を我々に提示するとき、つまり、AIがインテリジェンスだけでなく人間らしいぬくもりまでもを凌駕される時が到来したとき、その世界ではもはや生身の人間が必要なくなるのではないかという恐怖を覚えたのです。

今の時代はあまりにも知能を重んじる風潮にあるのではないかと思います。その結果、このハゲーと絶叫する思いあがったモンスターを出現させるに至ったのではないでしょうか。ゆえに、今我々にとって最も重要なことは知能を競うのではなくむしろ人間性を磨くことに努力を傾注していくべきではないかとふと思った次第です。

今年はどうやら猛暑になりそうですが、体調管理に十分気を付け、今月も頑張っていきましょう。

今月の話は以上です。

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